ベンチャー企業社長の挑戦、そして苦闘

 サン・アクト株式会社は京都で、環境や緑化だけでなく、
深く多様な衣食住空間をできる限り発信することを目指す企業です。
 ベンチャー企業社長である、私自身が語る挑戦と苦闘の日々。
また、妻と5人の子供達の歩み、そして様々な方へ、私なりの思いをこのブログで発信続けていきます。
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2018.08.01 Wednesday | - | - | -

散り方次第で花は二度、咲く:会社を潰しても再起は可能

flower

 私の前職はホテルマンだ。そのホテルの常務が私の父だった。

 20年近く前に、ホテルの関連会社に属していた私。そして、約15年前にホテルは会社更生法を申請して事実上の倒産となった。
 会社更生法申請当初、父は先頭に立って債権者各位に土下座を続けた。法律上、お金を債権者に渡すことはできず、ただただ、謝るしかない。罵声を浴びせられても、「申し訳ありませんでした」と、何十回も、何百回も、土下座をするしか方法は無かった。

 もちろん、他の役員も謝ってはいたが、先頭に立って、文字通り、矢面に立って、土下座を1年近く続けたのは私の父だった。実家も半分は売却し会社へ。車も軽自動車になった。

 少し視点を変える。

真面目に経営に取り組んだ結果、会社を潰すことは経営者にとって恥ではない: やまもといちろうBLOG(ブログ)

 私はこの記事に極めて、共感を覚える。私が思うに、会社が潰れかけようと感じた際は、まず経営者の給与カット、小さなオフィスへ移動、早めに金融機関に相談が不可欠。

 紹介した記事には、こう書かれている。

会社が潰れるというのは、ある意味当たり前なんですよ。

だから、潰れたときのことを、みんな見ています。会社の資金繰りが悪いのに高い遊興費を使っていないかとか、派手なオフィスにいるかとか、事前に資金状態が苦しいなどの情報を出してきて協力を要請してきていたかとか、潰れそうだと言うとき連絡が取れないとか、そういう話。

再チャレンジできる社会を! という掛け声はもちろんその通りだと思うんですが、チャレンジを容認するかはどう潰したか次第です。
 
 私も、そう思う。

 お陰様で私が属していたホテルの関連会社は連鎖倒産を免れた。ただ、取引先は皆無であり、何をやれば良いかも分からなかった。

 結局、ホテル業以外の「貴重な衰退樹木の回復」という全く違う分野の事業を開始した。しかし、2年間、給料無しで、無料で樹木を回復させた。相手は何と言っても樹木であり、目に見えるような回復には最低でも一年は要する。そのために無料で実績づくりばかりしていた。
 そして2年間、父・弟を中心に、お陰様で実績を上げることができた。しかし、実績を写真で掲載し、貴重な樹木を保有している寺院や神社に行っても、そう簡単に発注いただくことは無かった。

 しかし、救いの手が現れた。破綻したホテルの債権者のお一人だ。土下座を続ける私の父を見続けていた、あるお寺の債権者の方だ。

 「ちょっと境内の庭園を管理してもらえないだろうか」と父に電話があった。

 その方が、新たに事業を開始した際、最初にお金を頂戴したお客様。

 お陰様で、その債権者の方の紹介で、少しずつ、お客様が増え、今年で12年目を迎える。

 最初にお金を頂戴した債権者だったお客様の庭園の管理は、今も続いている。正月に、毎年、父は挨拶に行く。そして私が庭園を管理する際に、お客様は、私を経営者として「良く頑張っているね」や、「良く続いているね」と短いながらも勇気を与えていただく言葉を頂戴する。お客様は、今、私を「見続けておられる」ということだ。

 父の土下座が無ければ、今の会社も、今の私も無かった。

 父の土下座、そして、それを見続けていた債権者であり、今はお客様である、あるお寺のご住職。

 今、京都では桜の花が散っている。しかし、翌年には、また花が咲く。

 人生も会社経営も同じだ。散ることがあっても、散り方次第で花は必ず咲く。

※「ベンチャー 企業社長ブログトップ10位へ
2012.04.18 Wednesday | 経営的視点 | comments(0) | trackbacks(0)

もっと謙虚に、起業を目指している方へ。

 昨今、多く若い方々が多様なアイデアを持ち、起業しようとされています。

 ただ、「起業」と「事業」は決定的に違います。

 「株式会社・・・」で法人格は取得できます。

 基本的には、法人格が無ければ、銀行も融資、いわゆる借金ができません。法人格取得は30万円程度の資金があれば、容易に可能となります。

 「事業」は上述した法人格を得て、借入もできる状態になってこそ、第三者が「会社として認め」、そして「貸すに値する」と見なすものです。

 起業することは容易です。

 しかし、事業として会社を継続させること、そして借入が可能な状態になって、やっと「起業した」と認識いただければと思います。

 Twitter、Facebookで起業する旨を発信されている方がおられたので極めて短文ですが、ご容赦を。

 最後になりますが、もっと第三者に対して謙虚で無ければ、「起業」は「事業」へと、変化しません。

※「ベンチャー 企業社長ブログトップ10位へ
2011.12.24 Saturday | 経営的視点 | comments(0) | trackbacks(0)

失敗は、当社にとって最も大切な製品である

成功

 このエントリのタイトルである「失敗は、当社にとって最も大切な製品である。」という言葉は、バンドエイドなど、今では誰もが知っているヘルスケア製品大手のジョンソン&ジョンソンの元CEOであるR.W.ジョンソン・ジュニアが1954年に発したもの。J&Jは、1886年にジョンソンの3人の兄弟で創立され、今ではヘルスケア部門で世界1位、2位を争う多国籍企業だ。
 J&Jの「消費者の命を守る」という我が信条 (Our Credo)に基づいた1982年・1986年のタイレノール事件での危機管理対応は、多くの方々がご存知だと思う(ご存知の無い方、詳細を知りたい方は、J&Jの日本語サイトをご覧いただきたい)。

 さて、本題だが、過去に、私がMBA時代の教科書として学び、最も心に残っている書籍が日本語化された(このエントリの最後に紹介)。
 私の以前のエントリ:「リーダーシップとフォロワーシップ」、「フォロワーシップが発揮される時代へ」に英語の書籍を掲載しているが、この書籍の日本語版だ。
 過去のエントリの再載になるが、以下に、この書籍が定義するリーダーシップの資質についてまとめた。

1)Challenged the process.
 とりあえずリスクを考えずにやってみろ。やったことが失敗しても、何が原因かが分かることは、成功として評価できる。

2)Inspired a shared vision.
 ビジョンを社員に分かちあうことに情熱を傾けろ。

3)Enabled others to act.
 ビジョンがしっかり伝えられれば、社員の行動にも現れる。

4)Modeled the way
 社長が手本を見せろ、そうすれば、社員もビジョンを意識するだけでなくアクションに反映される。

5)Encouraged the heart
 誰かが素晴らしい結果を出した時、メールや手紙、社内報ではなく、社長が実際に会って、貢献した担当者に直接、かつ全社的に評価する仕組みをつくれ。

 こうして再度、読み直すと、まだまだ私はリーダーの領域にはるかに達していない感がある。当然のことだ。このエントリをご覧いただいている皆様はどうだろうか。

 1)については、リスクをとって、失敗することで、何が原因が判明し、次には良きアイデアが提示できるということ。まさに冒頭で紹介したJ&Jの「失敗は、当社にとって最も大切な製品である」がこれに該当する。「失敗は成功のもと」と良く言うが、まさに経営においても同様だ。怖がって何もやらなければ、現状維持か、中長期においてその企業は衰退していく。このリスクをとるということは、リーダーだけでなく、一般の社員、日常生活にも言えることだ。
 例えば、好きな相手に対し、怖がらず、自分なりに考えたアプローチを行う。そのアプローチが失敗に終わったとしても、何が失敗の原因だったか、相手の反応を見ることで、次の新たなアプローチを見出すことができるだろう。

 2)については、ビジョンとは、そう簡単に達成できないもの。極論すれば企業が存続する限り、成し得ないもので、ビジョンに少しでも近づくため、企業は前進する。よって、ビジョンとは企業体の基礎的な原動力とも言える。ディズニーのビジョンは「人々に夢を与えること」。今、戦争が、常にどこかで発生し、そして絶望感のみで日々を暮らしている人々や国家の存在。ディズニーにそれを止めること、改善することは容易なことでは無い。しかし、「人々に夢を与える」というビジョンを持つことで、何をすれば、できるだけ多くの人々に夢を与えることができるか、それを達成するためにはどうすれば良いのかをディズニーの社員は考え、実行に移す。これが3)に相当する。
 日常生活においても、自分自身が「こうありたい」という長期的な視点を持つことで、今の自分に「何が欠けているか」、「欠けているものを克服するにはどうすべきか」などが明確となる。そして、「今、何をすべきか」、「来年までにここまで実現しなければならない」という目標が見えてくる。

 4)については、トップが率先してやれ、ということ。自分の会社は、「将来、こうありたい」、「こうなっていたい」というビジョンを明確にし、上述した、現時点で自分の会社に欠けているものを克服するために、社長自身が明確な行動で示す。そうすれば社員も社長の行動を見習って、自分なりにできることを始めるだろう。結果として、会社独自のマニュアルを超越した個々の社員の動きが生じてくる。重要なことは社長がまず最初にやるということだ。
 日常生活においても、手本になる誰かをまず見つけ、その人の行動を見習い、まず自らができることを少しずつ実際の行動に移す。そうすれば、手本にした人のスキルや態度を時には凌駕している可能性があるかもしれない。

 5)については、読んで字の如し。この手法をうまく取り入れている企業事例が「「幻の手羽先はパクリ」エスワイフード会長 山本重雄の創業秘話 不況に勝つ企業ルポ「世界の山ちゃん」前編 | 経済の死角 | 現代ビジネス [講談社]」・「暑苦しいけど楽しい「ファミリー」という哲学 不況に勝つ企業ルポ「世界の山ちゃん」後編 | 経済の死角 | 現代ビジネス [講談社]」。是非、リンク先、特に後篇をご一読いただきたい。

 是非とも、以下に紹介する日本版をご一読いただきたい。経営者の方々だけでなく、社員の方。そして、一般の方々にも巷にあふれる自己啓発書より、はるかに役立つ良書であると私は考えている。

※「ベンチャー企業社長ブログトップ10位へ

ジェームズ・M・クーゼス,James M.Kouzes,バリー・Z・ポズナー,Barry Z.Posner

2010.03.17 Wednesday | 経営的視点 | comments(0) | trackbacks(1)

若かりし頃、私は詐欺に遭遇した:その失敗から得た新規事業成功のために最低限必要な5つのポイント

新規事業

 20代後半の頃、もう10数年以上前の話だ。社会人としてはまだまだ子供のような時に私は恥ずかしながら結果として詐欺に遭遇し、600万円近い損をした。この「詐欺」という大失敗から得た教訓から、私の会社では新規事業を展開する基軸を決めている。今回は、私が経験した詐欺の概要とそこから得た新規事業成功に最低限、必要なポイントと思われる点について列挙する。
 まずは、詐欺の概要を説明しよう。ちなみに、なぜ20代の当時の私に600万円程の資金があったのか、そして当時、所属していた会社との関係はどうだったのかについては、やはり支障があるため、割愛させていただくことをご容赦いただきたい。いずれにせよ実話であることは確かだ。

私が遭遇した詐欺

ある人との出会い、そして会社設立
 若かりしある日、ある方から、「凄い技術を持った人がいるので会わないか」と言われ、実際にその方とお会いした。B氏としよう。彼の技術は、特殊処理による合金加工のようなものだった。B氏は実際に私の目の前で光り輝くサンプルを見せ、様々な技術評価のようなペーパーを出し、そしてこの技術の将来性について熱く語った。
 B氏は、「この技術を成功させるために、あと少しだけサンプルが必要だが、その資金が無く、困っている。何とかしてくれないか」と言って話を終えた。もし、今の私であれば、すぐさま「そうですね、検討してみます。」と実質的に断るだろう。しかし、当時の私は若かった。
 私は少しだけ逡巡したが、「では、私とBさんで新しい会社をつくりましょう。」と言った。そして300万円で有限会社をつくった。本来、共同で事業を進めるB氏もそれなりの割合で出資すべきところだったが、B氏は10万円のみ出資した。結局、自己資金290万円と会社設立諸経費を合わせ、330万円相当を私は最初に負担した。B氏が10万円のみ出資という点でまず怪しむべきだったのだが。

B氏から請求が続く
 B氏は中部地方の方で、当時の私は京都。会社設立後は、B氏とファックスや電話でやり取りしていた。携帯電話もメールも無い時代だ。重要な打合せの際は、B氏の自己負担で新幹線で京都まで来訪された。ここで私は少なからず信用してしまった。経費節約を考えてくれているのだなと。
 打合せの際に、B氏から一枚のファックスを見せられた。サンプル製造会社からの見積書で、費用約180万円で全額前払いすることが条件だとB氏は言った。今の私であれば、見積書現物を見せるよう依頼したり、その製造会社に実際に電話で確認するなど、それなりの策を講じるが、私は、またしても深く考えずに、「どうぞこの金額で発注してください」と応じた。
 今までの付き合いから、B氏がサンプル製造会社に直接、支払うということで、B氏の口座に約180万円を振り込んだ。これも今から考えれば奇妙な話だ。本来であれば新しく設立した会社からサンプル製造会社の口座に必要額を振り込むのが当然である。
 いずれにせよ、その後も、同様に「ファックスによる見積書提示と前払い」という流れでB氏の口座に指定額を振り込み続けた。

資金が底をつく
 資本金300万円で設立した会社の資金は、設立3ヶ月で無くなりつつあった。ただ、何度かB氏と対面し、実際に出来上がった様々な形状のサンプルを見て、私は何らの疑問も抱かなかった。そしてB氏は「あともう少しで、ビジネスになりますから」と言い続けた。
 しかし、設立当初の資金が、とうとう皆無となった。その旨をB氏に伝えると、「何とかあと少しだけ辛抱して下さい。そうでなければこの技術の権利を誰かに譲りますよ。この技術を欲しい人は大勢いますので」と彼は少し脅した口調で言い、やむなく私は、当初設立の資金330万円に加え、250万円程度を自己資金で用意し、またしてもB氏の口座に段階的に振り込み続けた。

最後通牒、そして騙されたことにやっと気付く
 その後もB氏から同様の資金提供の依頼があった。しかし、私の自己資金にも限りがあった。「もうこれ以上は出せません」と私は電話で初めて明確に自分の意思をB氏に伝えた。
 B氏は「そうですか、それでは今までの権利を他の人に譲ることとします」と彼は答えた。私は「今まで提供してきた資金はどうなるのですか」と彼に聞いた。B氏は「それは、もう終わった話ですから」と答えた。B氏の対応、口調が大きく変わった瞬間だった。
 その段階に来て、やっと私は「これは騙されたのか」と思った。私は、「一度、そちらに伺って、話をさせて下さい」と彼に伝え、中部地方の彼がそれまで示していた自宅へ出向いた。新幹線に乗り、私は地図を片手に彼の自宅へ向かった。
 しかし、彼は不在だった。ただ、彼のパートナーと称する女性がそこに住んでいた。いわゆる内縁の妻というものだ。彼女に今までの経緯を伝え、B氏の所在を聞いた。「台湾に長期出張で、いつ戻るかわからない。そして今までの経緯について私には何のことかさっぱりわからない」と彼女は答えた。
 私は何の収穫を得ることも無く、京都に戻った。そして二週間後、B氏宅に電話したが、電話回線そのものが繋がらなかった。
 私は、ようやく、約600万円すべてを騙し取られたことに気付いた。後になって判明したが、同じ手口で、将来性のある技術と見せかけ、B氏は多くの方に金を騙し取っていたようだった。しかし当時の私には、どういう対処法があるのか相談する相手も無く、結果として、泣き寝入りの状態となった。

 ここまでが、私の恥ずかしい詐欺の概要だ。では、この失敗から得た新規事業成功のルールのようなものを列挙する。尚、ここでいう「新規事業」とは会社外部の第三者の技術や経営資源を活用し、共同で新たなビジネスを推進していくことを示す。

詐欺から得た教訓:新規事業成功に必要な5つのポイント

1)他人の技術・ノウハウに完全に依存したビジネスはやるな
 本当かどうかはともかくもB氏の「特殊処理による合金加工」は、その技術があってこそ成立するビジネスだ。少なくとも当時の私の知識、また今の私の会社が保有する既存技術においても入り込む余地は皆無だ。換言すれば、他人の技術を応用するノウハウがまったく無ければ、事業化することは不可能に近いということだ。
 よって、少なくとも中小企業においては、第三者の技術に完全に依存する形態は、いくらその技術が優れ、そこから生まれた製品が良く売れていたとしても絶対に避けるべきだ。この形態は新規事業ではなく、単なる金で看板とノウハウを買うようなフランチャイズと同じで、大きな展開は絶対に見込めない。
 上場企業など体力のある企業であれば、極めて異なる業種・サービスであったとしても、魅力があれば買収によって技術だけでなく買収先が持つ既存顧客さえも獲得し、一定期間は連結対象として売上は増加する。しかし、買収先の技術やノウハウにほぼ完全に依存したビジネスモデルが成功しないことは、上場企業の過去の買収劇の数限りない失敗事例からも明らかだ。上場企業であったとしても事業領域が似た企業の買収が基本であり、基礎体力のある上場企業だからこそ大きなシナジー効果が得られる。逆に極めて異業種の企業買収は、最低限のノウハウや知識も無く、結果として買収先に対して最適な経営判断ができず、上場企業といえども失敗する可能性は高い。

2)自社で判断できない領域には近寄るな
 今回、私が若く経験不足だったという点も騙された大きな原因の一つだが、最大の原因は、相手が見せた技術が本物か偽物かどうかまったく理解できなかったことにある。もし、B氏の技術が自分の知っている分野の技術やビジネスモデルなら、容易に市場規模や技術の新規性、優位性など即座に判断できたはずだ。さらに用心深く、知り合いの専門家に技術評価を委ね、その結果から最終的な判断を自ら行うことも可能だった。
 私自身も「ホテルマン」から「環境・緑化」という未知の分野で事業を開始した。詳細は書かないが「青森」というまったく見知らぬ地域で「リンゴ農家向けの商品」を販売するために、それなりの知識を獲得すると共に、現場で顧客の声を聞いた。それでも3年程度の月日を要し、やっと「買ってもらうことのできる商品」を開発することができた。それほど、未知の分野に参入することは並大抵の努力では実現不可能と言うことだ。
 ましてや、業界特有の商流・慣行・法律などを知らなければ、価格設定も商品ラベルも作成できず、最悪の場合、法律違反で取り締まられる危険性も孕んでいる。このように自社あるいは自分自身が未知の分野でビジネスを行っても時間を要し、失敗の可能性が極めて高い。先に述べたフランチャイズの限界と同じで新たな展開は、ほぼ見込めない。

3)既に保有している顧客層に合わないモノは扱うな
 仮にB氏の技術が本物であったとしても、そして商品化できたとしても、自社が持つ既存の顧客層が興味を持たないモノであれば、顧客開拓から始めなければならない。商品化に向けたコスト、ある程度の在庫コストなどの初期投資に加え、十分に満足して買っていただく顧客をゼロから探すという時間と初期コストを総合すれば、最低でも1年間は赤字のままだろう。
 先に述べたポイントである「自社既存技術が活用できる・自社の事業領域に合致している」という点がクリアされていたとしても、既存顧客層に受け入れられない商品・サービスは、事業開始当初は既存顧客との信頼関係が構築されているため、数十人に一人は買ってくれるかもしれないが、リピートはほぼ無いと言って良いだろう。
 十分に既存顧客に納得いただける背景・意味合いが新たな商品・サービスに付加されていない限り、最悪の場合、既存顧客を失う可能性もある。「何でこの会社はこんなビジネスを突然、始めたのだろうか?」と既存顧客は不安視し、顧客は離れていく。

4)人を信用するな、性悪説で対峙しろ
 恥ずかしながら、私が最初から最後までB氏を信用し続けていたことは、上述した「詐欺の概要」から明らかだ。当時の私は「人を疑う」という考え方そのものが皆無だった。B氏の出会いは第三者からの紹介だが、私の例に関係なく、紹介者がどれほど著名な人、どれほど地位の高い人であったとしても、紹介された相手本人については、まず疑いの気持ちを持って対峙すべきだ。もちろん疑いの念を抱いていることなど相手に気付かれぬようにすることはいうまでもない。
 新規事業を共同で行う場合、相手が上場企業の社員、有名大学の教授だとしても、そして極論だが永年の友人であったとしても、気を緩めることなく、できる限り、様々な方法で相手やその周辺を事前に調べ尽くすことが必要だ。
 相手は様々な感情を持つ人間。騙そうという意識が無いとしても結果として新規事業が失敗に終わった場合、自分自身は「騙された」と思う。いくら綿密な契約書で双方が合意しても、結果がすべてだ。
 人を信じるのではなく、結果が出るまでは信じない。また「騙そう」と最初から考えている人間は、まずちょっとした「結果」という「餌」を与えることが多々ある。例えば、最初の数ヶ月の順調な入金などがその最たる例だ。このように最初は順調でも突如として態度が豹変する可能性があることを常に想定し、「僅かでも疑問が生じた場合は、事業そのものを停止し賠償してもらう」といった点について事業開始前に相手に明確に伝えておくことが必要だ。そんなことを事業開始前に言えば、円満に事業など共同で行うことはできないと考える方もおられるだろう。しかし、そのくらいの覚悟、勇気を相手に見せることで、最初から騙そうと考えている相手もこいつは手強いと考え、リスクを回避することができる。

5)単独で事業計画を書けない新規事業などやるな
 自分の会社の既存事業の事業計画なら多くの方がそれなりに書くことができるだろう。しかし、新規事業を第三者と共同で行うとしても、自分自身が何の不自由も無く事業計画を容易に書くことができないようなものであれば、そのビジネスは絶対に成功しない。
 売上計画、収支計画、販促計画など、共同で実施している第三者の力を借りなくともすらすらと自信を持って構築し、誰しも納得させることができるプランを提示できる状態がビジネスの大前提だ。自信の無い、根拠の無い計画に基づいた新規事業はビジネスとは言えず、遅かれ早かれ、そのビジネスは破綻する。

最後に

 以上、いろいろと書いてきた。再度、以下に項目としてまとめてみる。今、何らかの形で第三者の協力を得て、新規事業をされている方、しようと考えている方は、以下の項目の一つでも疑問や齟齬が存在していれば、新規事業そのもの、あるいは新規事業を行う相手を見直す必要性がある。

1)新たな事業は自社の強みを最大限に活用できるものか?
2)新たな事業のターゲットのことを知り尽くしているか?
3)新たな事業の顧客を既に持っているか?
4)肩書きや企業規模だけで、相手を信じていないか?
5)事業計画は単独で構築可能で、誰に対しても説得力があるか?

 さて、この5つ以外にも新規事業を行う上で留意すべき事項は多々ある。5つをクリアしていても、事業が失敗した場合、誰が責任をとるのかについて事業開始前に明確にしておかなければならない。また、事業が成功した場合、どちらがどれだけ利益を分配するのか、事業が停滞した場合、どの段階で事業を停止するのかなど。

 ただ、私の経験上、最も重要と考える点はただ一つだ。先に述べたように、第三者の経営資源やノウハウという有形、無形の協力を得ることを前提としても、「自社単独でもその事業を推進できるものこそが新規事業である」ということに尽きると私は考える。
 換言すれば、「自社単独で新しい事業をできないと判断した場合に限り、何が事業推進の壁になっているかを明確にし、それを補完する意味合いで信頼できる第三者を探し、協力を得る」というスタンスを基本としなければ、いつになってもその新規事業は自分の会社の事業の一つには成り得ないと私は考える。

【参考図書】
ビジネスロードテスト 新規事業を成功に導く7つの条件
ビジネスロードテスト 新規事業を成功に導く7つの条件
ジョン・W・ムリンズ

※「ベンチャー企業社長ブログトップ10位へ
※「特選された起業家ブログ集トップ10位へ
2008.06.05 Thursday | 経営的視点 | comments(0) | trackbacks(0)

社長ブログでは見抜けなかった:本当にあったちょっと怖く信じ難い話



 3月決算の企業にとって、4月から5月は通常業務と並行し、決算処理、株主総会に向けての準備など極めて多忙で、私のサイトも更新が極めて滞っている。しかし、今日になってやっと一息つくまでになった。ここ数週間の苦労を思うと、ふと過去の記憶が蘇ってきた。ちょっと怖くかつ信じ難い実話だ。

 2年ほど前のこと。ある交流会で若い起業家と名刺交換した。A氏としよう。彼は、起業してまだ1年足らずと言っていたが、彼が得意とする「独自の顧客層」に対し、我々の商品を販売したいと要望があった。
 我々単独では早急に開拓できない顧客層であり、ありがたい話と考えたが、まずは、代理店契約といったリスク(それなりのロットの商品を低価格で納品しても入金が無ければすべて損になる)を回避するため、彼の会社を通じて販売された量に応じて、それなりの手数料を支払うという契約内容でスタートした。私の会社も彼の会社専用のラベルを1000枚程度、印刷しただけで、大きな費用は発生しなかった。

 取引の流れは次のようだ。4000円の我々の商品をA氏は、彼の顧客から受注する。我々はA氏が受注したと連絡があった段階でA氏のオフィスへ商品を発送する。その後、我々は、A氏に小売価格10%の400円のみを引いた3600円と送料実費を請求する。実質的なA氏の利益は400円しかない。
 我々の商品は1kg程度あるため、どの地域でも約700円以上の送料が必要となる。よってA氏は顧客に対して送料を請求しなければ必ず損となる。よくある「5000円以上お買い上げの方は送料無料」という通販の形態は取れない程、利幅は少ない。

 取引開始前に一度、A氏のオフィスを訪問した。ベンチャー企業が集まるインキュベーション施設の一角が彼のオフィスだったが、最初はどんな企業もそのような形でスタートするため違和感は無かった。そして利幅が極めて少ないことについて再度、確認したが、最初はそれでいいとA氏は言った。「まだまだ力不足の私ですから」と。
 そして、オフィス訪問から2週間程度で、すぐに注文が来た。なかなか良いスタートだと考え、本当の意味での信頼関係を築くために、何度か会合(いわゆる飲み会)を重ね、販売促進の方法や、今後の計画を双方で議論した。その後は、メールや電話などでお互いに進捗状況などの報告を共有していた。

 それからまた数週間、ちょうど交流会で出会ってから2ヵ月程経過したが、注文はそれなりに続いていたため、本格的に代理店契約を締結し、A氏の会社専用の商品を作ろうかと考えていた。もちろんA氏側からの支払いも停滞無く行われていた。
 しかし、その頃になって、急にメールのレスポンスが遅くなってきた。返事はあるのだが曖昧な回答だ。電話でのやりとりも明確に応じることなく先延ばしのような回答しかなかった。ただ、メールも電話も最後には「もっと売れるように頑張ります」とA氏は常に答えていた。

 彼のレスポンスに対して、少なからず違和感を覚えたが、注文と支払いだけは滞りなくあった。私はA氏の会社専用の商品を作り、それなりの利幅を持ってもらい、今以上に販売してもらえるかどうかについて最終判断するために、「近いうちに会いましょう」と連絡した。しかし、A氏は、「最近、他の事業で忙しいので少し待ってもらえますか」との回答しかなかった。

 「まぁ、何とかなるだろう、こちらはリスクは皆無に等しいから」と私は判断し、A氏の連絡を待っていた。数週間後、社長であるA氏から、新入社員が入ったので、その担当者とこれからは、やり取りして欲しい旨の連絡があった。
 この連絡を受けた瞬間に「何かおかしいなぁ」という感を持った。何も販売したこともなく、業界に詳しくも無い新卒社員という話だったこと、そして何よりも交流会の出会いからその後のA氏の対応の変化に強い違和感を覚えた。そこで私は、企画担当の社員とA氏のオフィスで打合せするように指示した。あえて私はその打合せに参加しなかった。

 最初の打合せ後、企画担当の社員に「どうだった?」と聞いた。しかし、「特に問題はなかったように思います」と社員は答えた。
 私は、どうしたものかなと考え、ふとA氏が「社長ブログを書いています。」と言っていたことを思い出した。A氏の社長ブログは、会社のサイトからリンクされておらず、かつ匿名でのブログだったが、知っている人が見ればA氏本人とすぐにわかる内容・サイトだ。
 A氏の社長ブログは日々、更新されていた。誰それと出会って、何を食べたなど、「私が好まないブログスタイル」ではあったが、ブログを見る限り、様々な商品を取り扱っていることが書かれ、順調に事業が展開されているように見えた。

 それから数週間後、私の会社の企画担当社員から、「社長、A氏の会社の担当者が、また他の方に変わりました」との報告を受けた。理由を聞くと「前の担当者の方は新しい事業を受け持つことになったそうです」とのこと。「新入社員が数週間後に新規事業担当とは、これまた珍しいな、完全に変だな、危ない」と私は感じた。
 通常であれば、私に対し、担当者が何度も変わることに対して、一度はA氏から連絡があるべきものだ。何といっても交流会という場でA氏から我々の商品を扱いたいという話が発端なのだから。しかし、A氏からは何の連絡も無い。私は、私の会社の企画担当にとりあえず現状維持あるいは縮小の方向で、新しい担当者と話を進めるように指示した。

 その後、たまにA氏のブログをRSSリーダー経由で見ていたが、毎日のように更新され、私の知っている社長にも会っているなどのエントリがあり、先に述べたように順調な事業をブログ上では展開されているように読み取れた。

 しかし、ついに変化が現れた。注文がA氏の会社からまったく無くなったのだ。売れた分だけ手数料を払うスタイルを維持していたため、私の会社には何の損害も発生していなかったが、10日間だけ様子を見ることに決めた。しかし、A氏の会社からは何の連絡も無い。ただ、A氏は毎日を楽しむようにブログを更新されていた。
 10日後、私の会社の企画担当に、アポイント無しでA氏のオフィスへ訪問するよう指示した。そして、その日、私の携帯電話が鳴った。

「社長、A氏のオフィス、誰もいません」と企画担当は叫んだ。
「何も無いのか」と私は聞いた。
「はい、書類もパソコンも何もありません、ただ・・・」と企画担当。
「ただ、何?」と私。
「そこらじゅうにいろいろな商品が残されています」と企画担当。

 我々の商品もA氏のオフィスに残されていた。インキュベーション施設のマネージャーの許可を得て、我々の商品を回収した。
 インキュベーション施設のマネージャーが言うには、毎日のように多様な商品がA氏のオフィスへ納品されていたとのこと。しかし発送などされず、オフィスの倉庫に保管されたままで、どうしたものかとマネージャーも不信感を抱いていたとのこと。新入社員というのも単なるアルバイトのようだった。

 結局、A氏に顧客など存在していなかったのだ。我々の商品4000円を10%引きで仕入れ、差額の400円を利益というよりも現金収入源として見込んでいたのだ。本来ならば売上4000円を計上すべきところだが、誰にも販売していないため、400円が売上となる。しかし誰かから買ってもらわない限り、我々が請求する仕入値3600円と送料は確実にA氏の負担となる。我々の商品が在庫としてほぼすべて残っていたため、少なくとも我々の商品でA氏は大損していたこととなる。
 しかし、送料が極めて安い商品、自ら商品を取りに行くなどして送料負担を回避し、どこかの転売先を見つければ、10%の利益と転売先での手数料でビジネスは成立する。もちろん、極めて低い売上となるがお金は僅かに残る。いずれにせよ家賃を支払えば現金は自ずと消えてなくなるはずだが、大量にあらゆる商品を同様の手法で取り扱い、日々を過ごしていたとしか他に考えられない。その一つが我々の商品だったのだが、我々の商品が持つ特性から転売先が見当たらなかったのだろう。転売先の確保が無理とA氏が判断したの結果として、私に会う意味は無い=A氏は私を避けるようになったのだと今となれば理解できる。

 いずれにせよ、本当の意味でのビジネスとは言えない。自転車操業を超えたものとも言える。

 A氏のオフィスに誰もいなくなったことが判明し、数日後、私は彼の社長ブログを見た。驚くべきことに彼はまだ日々、更新を続けていた。楽しそうに、そして順調そうに装ったエントリが続いていたが、2週間後には更新が途絶えた。
 その後、1年程前、ある交流会で熱心に名刺交換をしているA氏を見かけた。私は声をかけること気持ちなど皆無だった。それよりもまだ京都にいることが信じられなかった。

 恐らく、A氏は、いつになっても、新しいオフィスと違った会社名で多種多様な商品を扱う企業と関係を持って、同じようなビジネスを行い、社長ブログで順調な様子を装っているのだろう。いつまで続くのか誰も分からないが。いずれにせよ、ある意味において貴重な信じ難い経験だった。

 社長ブログに書かれた内容だけで最初から相手を信じる人は少ないだろう。ただ、金銭のやりとりが円滑に一定期間、続けば社長ブログの内容も嘘と思えなくなることに注意いただきたい。「振り込め詐欺」ならず「社長ブログ詐欺」と同様だ。

この人の言っていることは本当か?―ウソ・ハッタリを見抜く心理学
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渋谷 昌三

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2008.05.30 Friday | 経営的視点 | comments(2) | trackbacks(0)

商談は第一印象ではなく、「姿勢」という「第二印象」が成否を決める

商談

 最初に断っておくが、このエントリのタイトルにある「姿勢」とは商談に挑む「気合」といった精神的なものでもなく、かつ商談相手とのさらなる関係構築に必要な多岐に及ぶ知識や素養を学ぼうという意欲でもない。正に「背筋を伸ばす」という文字通りの「姿勢」を意味すると理解していただきたい。
 結論から言えば、百戦錬磨の屈強な商談相手は、「相手の背筋」を見て、最終的な結論を下すと私は経験上、考えている。

 その理由の最たるものが、商談では無いが、私自身が想定もしていなかった、「お前は姿勢が悪い」と烈火の如く怒られた経験にある。

 京都を代表する大学の名誉教授のご自宅で会食した時だった。会食後、リビングでスコッチを飲んでいた際に、2時間程度、スーツ姿で正座を続けていた私は足を崩したい旨を名誉教授に伝え、先生は快諾された。その快諾の声を聞いた瞬間に私は全身の緊張感が緩んだ。数十分後、先生は静かに、「背筋をしっかり伸ばせ」と言われた。静かながらも、その背後には大きな怒りが存在していたと私は記憶している。
 数十年間、学生と対峙し、数百人の研究者と研鑽を重ねた「人を見て、人を育てることが仕事」とも言える名誉教授の最後の視点は、正に「姿勢」にあった。
 もし、このエントリを読んでおられる際に、意識的に背筋を伸ばす必要があった方は、基本的にはいわゆる「猫背」の方、あるいは「猫背予備軍」の方であり、これから述べることは、少なからず参考になると思う。それほど「姿勢」とは外観から容易に判断できる評価軸と言える。

第一印象は通過儀礼。好印象を感じてもらって当たり前

 恐らく私のサイトをご覧になっている方々の多くは「商談」といったものを日々、経験されているだろう。取引先との打ち合わせ、プレゼンなど多種多様だろう。
 特に、初対面の方に対して「第一印象」を良くする、いわゆる「好印象」を感じてもらうために、基本的なビジネスマナーだけでなく良質なプレゼン資料を完璧に準備してから商談に挑むことは当然、誰でもすることだ。
 しかし、商談を何度も経験すると、「第一印象=好印象」は単なる通過点でしかないことに気付くはずだ。特に、高いレベルの商談を何度も経験している百戦錬磨の相手には、通過儀礼である「第一印象=好印象」の関門を当然の如く突破し、ライバルよりも優れたサービス内容や価格を条件提示したとしても本当の意味での商談は終了しない。

百戦錬磨の商談相手はあらゆる角度から相手の真髄を「吟味」する

 百戦錬磨の商談相手は、「第一印象」という形骸化した通過儀礼を突破した後に「相手を吟味」する行動にすぐに移る。「吟味」とは、「本当にこの人間に自らの会社を任せられるか」という観点で、思いもつかないあらゆる角度から様々に観察することだ。
 この「吟味」の印象・評価こそが、このエントリのタイトルとした「第二印象」という造語であり、その評価軸の最たるものが「背筋を常に伸ばす」という冒頭に述べた文字通りの「姿勢」だと私は考える。
 ご理解されにくいとは思うが、商談相手と対峙しているすべての時間において、「背筋が常に伸びているか否か」ということは、会社の規模や実績とは全く関係の無い、「個々の人間として日々、どう過ごしているか」を見極める際に最もわかりやすい視点なのだ。
 実際に、数時間、常に背筋を伸ばして相手と向き合うことができるかどうか実践してみればいい。極めて難しく、かなりの苦痛を感じることが容易にご理解いただける。それほど現代社会に慣れた人間にとって「背筋を伸ばし続ける」ことは難しいことなのだ。

 では、以下に具体的な「姿勢」とは何か、そして「姿勢」という「第二印象」をどうすれば良くできるのかについて列挙していく。

緊張感が途切れた瞬間に日々の自分自身が露出される。その落差を相手は吟味する

 少し視点を変えてみよう。

 帰宅途上の電車内を想像して欲しい。そこには仕事で疲れ、緊張感が皆無の人々が好き勝手に座っている。ある人は足を投げ出し、ある人は周囲を気にせず口を空けたまま熟睡している。誰も背筋を伸ばし、緊張しながら座り続けている人はいないだろう。
 人に見られることが商売の一つである政治家を想像してみよう。自らが撮影されていると意識している時の政治家の背筋は伸びている。しかし、ニュースなどで国会審議中に情けない格好で居眠りをしている政治家の姿を見て少なからず怒りを覚えた方は多々、おられるだろう。
 カメラがどこかで回っていることは知りつつも、まさか自分は撮影されていないと考えた結果であり、正に緊張感を失っている一人の人間の姿と言えるだろう。

 人間は、仕事中でも誰しも緊張感は途切れる。重要な点は、緊張感が途切れた場合の姿だ。帰宅途上の電車内の状況と似た姿を自分自身が業務中に行っていないか自問自答して欲しい。あるいは、会社内でリラックスしている上司や部下の姿を観察してみよう。もしかすれば、そこには電車内の状況と同じ姿を発見できるかもしれない。

 客観的にどう考えても恥ずかしいと思う姿を社内でもしているのであれば、重要な商談中に緊張感が途切れた場合、弛緩した本来の自分自身の姿が露呈した場合の落差は極めて激しいものとなるはずだ。
 その瞬間を百戦錬磨の商談相手は、見逃さない。そして程度の差を「吟味」し、評価を下す。

緊張感があっても、背筋だけはどうしても曲がる可能性が高い

 商談中や商談後の会食などでも余程のことが無い限り、緊張感は持続するだろう。しかし、背筋だけは常に真っ直ぐに持続させることは極めて難しい。現代社会においては会社、自宅それぞれ、「背もたれ」のある椅子を利用し、それに慣れてしまっている。そして、商談の場も会食の場も背もたれのある椅子が存在している。
 初対面、かつ重要な商談の場合、最初から「背もたれ」にもたれかかり商談を始めることはないだろう。それこそ非礼に近いものがある。しかし、緊張感が持続していたとしても、時間の経過と共にいつしか無意識、あるいは習慣的に「背もたれ」にもたれかかってしまう。
 実際の商談の場で、最初から最後まで背筋を伸ばし続けながら話ができるかどうか試してみればいい。例えば3時間以上、背筋を伸ばす姿勢を維持することは不可能に近いことが体感できるだろう。

唯一、かつ容易な評価軸が「姿勢」

 だからこそ、「背筋が常に伸びているかどうか」ということは、百戦錬磨の方の「吟味の時間」において、緊張感を数時間、持続させ続けられる人間かどうかの「唯一の指標」になる。
 数時間、常に背筋が伸びている人間=リラックスしている場合でも第三者が見て恥ずかしくない格好で仕事をしている人間=常にどこかに緊張感を持って仕事をしている人間=仕事を依頼するに足り得る人間」という評価が下される。

 「第二印象」の合格までの道のりはこれ程まで過酷なものであると同時に、「第二印象」の合格によって得るものは果てしなく大きなものと理解してもらえればと考える。

背筋を伸ばす、姿勢を良くする簡単な方法

 極めて前置きが長くなったが具体的な方法を以下に列挙する。
 まず、第三者に「猫背」で仕事をしているかどうか確認してもらおう。この場合、意識せずに数時間、いつも通り仕事をしていればいい。第三者には、一時間毎にでも座っている状態を見てもらえばいい。そこで、少しでも「猫背」に近い形になっていれば、以下の方法を実践していただきたい。

1)椅子を変える

 可能であれば「背もたれ」の無い椅子を使うことだ。
 オフィスなどで「背もたれ」の無い椅子を使うことは無理なことは承知している。しかし、一度、自宅など、何らかの形で「背もたれ無し」の椅子に長時間、座ってみると背筋を伸ばさざるを得ない状況、逆に今まで「背もたれ」でいかに楽をしてきたかが体感できる。
 本当に効果があると体感された方はオフィスに自費で持ち込むなど、交渉なり努力されればと思う。

パイプ丸イス TX-01W 53086
パイプ丸イス TX-01W 53086

2)今、使っている椅子にタオルを置いて座る

 まず、できる限り、浅い位置で椅子に座る。その位置にバスタオルなどの大きなタオルではなく、手を洗う際に使う位の大きさのタオルを四つ折り程度に折りたたみ、その上に座る。この状態で常に前傾姿勢を保つことが可能となり、自然に背筋が伸びていることが実感できる。
 数時間もすれば、四つ折りタオルの効果が体重によって無くなってしまうため、その都度、交換していく。下記のようなフェイスタオルの場合、二つ折りで十分だ。

 最初は苦痛かもしれないが、椅子の浅い位置にタオルを置き、その上に座ることを続けていけば、自ずと背筋が伸びていく。そうすることで長い商談にも「常に背筋を伸ばし続ける」ことが可能となる。
 いずれにせよ、一度でも良いので、椅子にタオルを置いて座ることで自然に背筋が伸びることを体感していただければと思う。すぐにできることだ。

マイクロファイバーフェイスタオル12枚セット DMF-12
マイクロファイバーフェイスタオル12枚セット DMF-12

3)バランスチェアを購入する

 一度、「バランスチェア」という語句でネット上で検索して欲しい。多数の商品が見つかるはずだ。以下は、参考商品だが、一見して、先に書いた、「イスに浅く座り、その場所にタオルを置いて座る」ことが理にかなっていることがご理解いただけるだろう。
 個人的にオフィスでも自由に椅子を選ぶことができる立場にある方は「バランスチェア」を是非、お試しいただきたい。

STOKKE マルチバランス ナチュラル+ブルー MULTI balans NA/BL
STOKKE マルチバランス ナチュラル+ブルー MULTI balans NA/BL

 以上、長々と書いてきたが、仕事中だけでなく日常生活においても、背筋を伸ばす工夫、努力は重要だと私は考える。
 背筋が伸びた状態を保持できる人間になれば、今まで書いてきたように、百戦錬磨の商談相手も大きな評価を下す。
 なぜなら、何度も書くが、「背筋を常に伸ばす」ことは、一朝一夕でできるものでもなく、またそこまで考えて日々、自己研鑽している人間が行う仕事は、内容そのものも強固なモノであり信頼に十分足り得ると、百戦錬磨の相手は知っているからだ。

 まずは、椅子の浅い位置にタオルを置いて、座ってみて欲しい。きっと何かが違うことがご理解いただけると思う。その簡単な一歩が、いつの日か大きな成功へと繋がると私は確信している。

【TB:http://anond.hatelabo.jp/20080817063634】

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2008.05.12 Monday | 経営的視点 | comments(0) | trackbacks(0)

大乱闘スマッシュブラザーズX不具合に対する任天堂様の神業的対応への御礼

顧客を知り尽くし顧客を満足させる法
顧客を知り尽くし顧客を満足させる法
 (本著はハーバード・ビジネス・レビューに掲載されたCRM・顧客満足に関する分野で特に選別された各種論文を収録したものです。一読の価値有りです。将来は、任天堂の今回の顧客対応の案件もハーバード・ビジネス・レビューに論文として記載されるはずでしょう。それほど任天堂の対応には素晴らしいものがあると同時に、この対応には何らかの組織的仕組みが隠されているはずです。)

 「大乱闘スマッシュブラザーズXを購入したが、不具合が生じ、Wii本体がまったく動かなくなった」というエントリを書いたのが、2月1日。しかし、想像以上、いや想定の範囲を超越した任天堂の神業的対応がその後にあった。

 以下、時系列にまとめてみよう。

 1月31日昼過ぎ:
 大乱闘スマッシュブラザーズX発売日、そして入手した日。

 1月31日夕方:
 大乱闘スマッシュブラザーズX不具合発生、Wii本体もまったく動かない状態に。

 1月31日深夜:
 帰宅後、オンラインで任天堂サービスセンターへ修理依頼。
 (修理依頼直後に自動返信にて修理申込受付メールを受信。)

 2月1日16時過ぎ:
 結局、任天堂サービスセンターへWii本体とソフトを直接、持参。
 (サービスセンターは混んでおらず、わざわざ持参いただきありがとうございますとの担当者の返答があったと妻から聞いている。)

 2月1日夜:
 任天堂ウェブサイトにて本件について告知
 参考:「Wii専用ソフト「大乱闘スマッシュブラザーズX」のディスクが読み取れない症状についてのお知らせ
 (このお知らせには、以下のように記載されており、持参でなく着払いで良かったと少々、残念に思うと同時に、やはり1週間以上、修理に時間を要するのかと、これまた少々、残念に思う。)
※発送はクロネコヤマト(TEL:0120-01-9625)または佐川急便の料金着払いをご利用ください。
※弊社到着後、およそ一週間を目安にお返しすることを予定しております。

 2月4日9時過ぎ:
 修理を受付た旨のメールを受信。
 (金曜日に直接、持参したのに土日を挟んでの月曜の修理受付メール到着に、仕方が無いと思いつつも、これはかなり修理に時間を要するかなと少し不安に思う。)

 2月5日(今日):
 極めて多忙な一日を過ごした私。打ち合わせ数件をこなす途中で、夕方に自宅前を通る。せっかくなので、家に入ってみるとちょうど長男の友人達5名程度が遊びに来ていた。友人の一人から「大乱闘スマッシュブラザーズX」が問題なく動いたとの話を聞き、今度の日曜くらいには我が家にもWiiが修理されてくるよと、長男をなぐさめる言葉を残し、すぐさま仕事へ戻る私。

 2月5日20時:
 任天堂サービスセンターより驚愕のメールが。何と本日、発送した旨の内容が記載。宅配便の伝票番号も記載。ネットで追跡すると18時半頃には既に宅配便は受付られた状態であった。

 以上をまとめると、2月1日金曜日のサービスセンターが終了する17時直前に持参。週末を終え、月曜に修理受付のメール受信。そして翌日火曜に修理終了、発送のメール受信。そして実際に火曜18時過ぎには発送ということとなる。
 もちろん、今回の騒動の発端である「大乱闘スマッシュブラザーズX」もサービスセンターには手渡してある。換言すれば、ソフトの動作確認も終了したため修理完了、発送となったわけだ。任天堂ほどの大企業で動作確認もせずに発送などとは、あり得ない話だ。

 サービスセンターへ持参した2月1日の夜に無償修理の告知が任天堂で実施された。この告知を実行する段階で、それなりの修理体制を任天堂は構築したのだろうか。基本的に週末はサービスセンターは受付対応していない。ただ任天堂本体は週末返上で対策を講じたのだろうか。
 考えられるとすれば、金曜にサービスセンターへ持参後、週末関係無しに修理を開始したのか、あるいは月曜までに万全の修理体制を構築し、月曜・火曜で修理を終えたのか。この場合、実質的に1日と半日程度で修理・動作確認・発送という対応を完了したといえる。かなりの、いや早過ぎる対応である。他の企業の対応を比較するまでも無い。

 少なくとも数千台程度のWiiが任天堂に押し寄せてきているはず。もしかすれば数万台かもしれない。どの程度、修理対象になるか任天堂も予測できないため、ウェブでのお知らせでは1週間程度の期間が必要と告知したと思う。

 しかし、実際は1日と半日で修理から発送は終わった。

 これが我が家だけなのか、それとも他もこのスピードで対応しているのか、もちろん私にはわからない。
 ただ、やはりサービスセンターにわざわざ妻が持参したことが少しは影響しているのかなとも考えている。「持参された方は優先的に」という社内規定などはもちろん無いだろう。また、人情のようなものが関与しているとも任天堂ほどの規模の企業では想像できない話ではあるが。

 いずれにせよ、サポートセンターに電話しても繋がらない、いくら事情を話しても適切な対応ができず、何度もやりとりを繰り返すといった、どこかのIT企業とは対応に雲泥の差がある。

 一度、任天堂に就職してみようかなと思うほどの神業的対応に、任天堂の皆様に心より感謝したい。極めて迅速なスピード対応、そしてすべてが無償という顧客満足を完璧に満たす組織とはどうなっているのか実際に体感してみたいとも思う。

 あとは、「大乱闘スマッシュブラザーズX」なるソフトを私が遊ぶことなのだが、これこそ私にとっては神業に近いほど無理な話で残念ではある。もちろん、子供たちが喜び、遊ぶ姿を週末に見ることはできるが。

 以上、「大乱闘スマッシュブラザーズX」については、不具合を受けた方が多いようで「該当エントリ」が検索上位になっており、アクセスが多数あるため、これらの皆様に少しでも参考になればとも思う。

 重複になるが、任天堂の皆様、ありがとうございました。私の会社も今回の対応を何らかの形で顧客対応の事例として活用できればと考えております。さすがに私の会社の規模では着払いから修理、そして発送すべてを無償で迅速に行うまでの体力は数件なら可能であるとはいえ、数千件はまだまだ無理な話ですが。

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2008.02.05 Tuesday | 経営的視点 | comments(0) | trackbacks(0)

MBAの視点で見る「Microsoft」の「Yahoo!」買収提案

GoogleがYahoo!へ買収提案

 極めてエポックメイキング(画期的)な案件、あるいは逆に想定された案件、いずれにも解釈できるかもしれないが、少し短めのエントリとなるがMicrosoftによるYahoo!への「買収提案第一報」について、MBAホルダーの視点から私なりに思うことを少しばかり書いてみる。

 Yahoo!の現在の株価を見れば、過去のYahoo!の株価推移を鑑みたとしても現段階での条件・買収提案は額面通りに考えれば、最もMicrosoftにとって最適な時期を選んだといえる。このタイミングを待っていたかのような感もある。
 Microsoftにとっては、Yahoo!に対する今回の買収提案は、Googleに追いつく、追い越すための唯一残された選択肢で、誰しもが納得することだろう。

 以下、「【解説】米Microsoft,迷走の末の「Yahoo!買収」提案:ITpro」より一部引用する。
 MicrosoftのLive路線は,思ったほどの成果を上げられなかった。Live構想を発表したわずか1年後の2006年末に,MicrosoftがYahoo!と買収交渉を始めていたことこそが,同社の苦境を物語っている。

 この苦境は,直近の決算にもはっきりと表れている。Microsoftの2007年10〜12月期決算におけるオンライン・サービスの売上高は,前年同期比38%増の8億6300万ドル。米Googleの2007年10〜12月期決算の売上高48億2668万ドル(前年同期比51%増)と比較すると,額・伸び率ともに大きく見劣りする。

 2007年に入ると,MicrosoftがGoogle路線とYahoo!路線の狭間で悩むのをあざ笑うかのように,Google自身が Yahoo!やMSNのテリトリーに進出し始めた。Googleは2007年5月にディスプレイ広告(バナー広告)に強い米Double Clickを買収。いよいよメディア向けの広告ビジネスでも,Googleは無視できない存在になった。Microsoftも,同じくディスプレイ広告に強い米aQuantiveを60億ドルで買収して,Googleになんとか対抗を図る。

 しかしGoogleは手を緩めない。2007年秋には,携帯電話機プラットフォーム「Android」を発表。Microsoftとしては,「Windows Mobile」を担ぐスマートフォン向けOS市場を侵食されるだけでなく,携帯電話機向け広告でもGoogleの後塵を拝するおそれが出てきた。

 結局、Microsoftとしては,無理をしてでもYahoo!を買収せざるを得なくなった、というのが実情で、上記引用通りの背景が強烈にあったのだろう(そう私なりにも考えたため引用した)。

 しかし直面するであろう大きな問題は、双方の企業文化があまりにも違うという点。この分野において専門家ではない私でも、企業文化、いわゆる社風が極めて違うと感じている。Microsoftの社員、社風、そしてYahoo!の社風。どうみても大きな乖離があると思う。「犬猿の仲」とまでは言わないが、良好な関係・Microsoftからの提案を違和感無く受け入れる素地はYahoo!には無いはずだ。過去の事例からも明白だろう。
 今後、実際に買収が完結する場合、買収が現実と見えた段階でYahoo!の社員の大量の離脱・退職が予想される。ストックオプションなどそれなりのインセンティブプランをYahoo!社員は既に獲得しているはずだ(これから株価が乱高下するとしても)。そのインセンティブの恩恵をこの買収提案を受けた段階でさらに考慮する社員も存在するだろう。もちろん恩恵を受けた後、Yahoo!社員は大量に離職する可能性も否定できない。いや、一連の過程で、多数のYahoo!のキーパーソンが離職すると私は考えている。

 重複になるが、今回の買収提案によって、Yahoo!の株価は短中期において乱高下するだろう。日本のYahoo!株価や関連銘柄もそうだろう。その株価に少なくとも米国Yahoo!社員は敏感になり、それぞれ最適と思う時期にそれなりの行動に出るだろう。もちろん、社員だけでなく、既存の株主やYahoo!の創業者以外の経営陣も同様だろう。

 いずれにせよ、先に述べたようにMicrosoftとYahoo!では社風・企業文化が違う。米国では日常茶飯事のM&A、米国で異文化企業同士の企業がM&Aで成功しているとしても、今回の事案は買収額がある程度、巨額であり、かつ買収が成功したとしても、Microsoft、Yahoo!双方に最たる目的であるGoogleを凌駕する戦略が打ち出せるか、そして現実化するか、まったく疑問の段階に過ぎない。特にYahoo!が株主を中心としたステイクホルダーを納得させるための施策を短期に打ち出し、十分に納得できるものを提示・実現できるとは到底、思えない。
 先に買収ありきではなく、Googleを凌駕する戦略を描いた上でのMicrosoftの買収提案なのか、それとも苦渋の選択、あるいは選択肢がYahoo!買収しかなかったのか、これらの点もこれから注視すべきではないかと私は思う。

 そして、Microsoft、Yahoo!双方の既存株主の動向も考慮すべきだろう。時間があれば、株主構成を調べることで、それなりの分析もできるが、Microsoftの買収提案提示直後の第一報に基づく私なりのエントリであり、子細な分析は省略することとする。いずれにせよ、Yahoo!の一部の大株主はMicrofostの買収株価を念頭に提案に応じるようYahoo!に迫ることは間違いない。

 私なりに現時点で考えられる前提は次の通りだ。
1)今後のロビー活動を考慮し独禁法の問題は前提として排除する
2)買収提案を受け入れた場合、Yahoo!共同創業者の一人であるジェリー・ヤン最高経営責任者、そしてもう一人の創業者であるデビッド・ファイロ氏が、二度目の創業者利益として莫大な現金とMicrosft株を保有することとなるが、これらの利益目当てで、買収提案を受諾する可能性は低いという点、
3)既にYahoo!は買収防衛策としてPoison pill(毒薬条項)を導入している。
 こららの3点だ。

 これらをふまえ、Yahoo!やMicrosoftなどの経営陣やステイクホルダーが対応するオプションは以下の通りでは無いだろうか。まだまだ情報不足だが。

1)Yahoo!単独で既存株主も納得する企業価値向上策を掲げ買収拒否を表明。
2)買収拒否を受け、敵対的買収をMicrosoftが仕掛け、混乱が生じる。
3)過去にYahoo!に接触した他の企業が買収合戦に参戦する。
4)GoogleがYahoo!の一事業部門買収に名乗りをあげるか一部業務提携。
(4点目については独禁法の厚い壁があるが、Google・Yahoo!・Microsoftという重鎮だからこそロビー活動で独禁法克服可能な道を切り開くことも可能かもしれない。)
5)Microsoftが買収価格をさらに上げる。

 これらのシナリオの中で、1)から3)までは現実問題となる可能性は高い。ただ、Googleが今回の買収合戦に何らかの形で加わる可能性は少なくないが、GoogleによるYahoo!の特定の事業部門買収までは無理としても業務提携・委託は可能性として皆無とは言えないだろう。Googleも傍観しているはずはない。この場合、Yahoo!の既存株主や社員、ステークホルダーは、さらなる恩恵・理解を得る結果となる可能性もある。一般ユーザーである我々も時間を要するとしても今までに無い、新たな恩恵・サービスを得られるかもしれない。
 敵対買収となった場合、MicrosoftがProxy Fight(委任状争奪戦)まで持ち込む可能性は低いと思う。最後の手段と言っても良いだろう。Proxy Fightは取締役を買収先に送り込むなどの株主提案を受諾させるものであり、敵対的買収合戦の一部でしかないと同時に文字通り「敵対的」な行動で、今回の買収事案が泥沼化する可能性があり、Microsoftも回避したいはずだ。また最初の買収価格を上げることも余程の経済合理性や他企業の動きが無ければ、買収価格引き上げは本当に最後の手段として残しておくだろう。
 換言すれば、「Proxy Fight的」な戦術をMicrosoftが選択した時点で、MicrosoftとYahoo!だけの事案ではなくなっているということ。この時点で、Googleだけでなく様々な利害関係者・関連企業が表面化せざるを得ない状況に陥っているはずだ。特にYahoo!の株主の動向に注視すべきだろう。

 買収が実現すれば、あるいは失敗したとしても、買収提案からMicrosoft、Yahoo!の対応、他企業の参入から買収事案終了までの過程において、近い将来、ハーバードビジネススクールのケーススタディとなる程の事案となることに間違いは無いだろう。成功例か失敗例かいずれかのケーススタディかどうかは誰もまだ想定できないが、多方面の視点でのケーススタディが多数、出来上がりビジネススクールの学生を悩ませるだろう。

 いずれにせよ、Yahoo!にとって、既に想定されていたとしても、大きな試金石として、彼らの対応、そして今回の買収提案で生じる事象について今後も注視したい。

 以上、MBAホルダーとしては、極めて幼稚かつ短い分析だが、報道がなされた直後で情報が極めて少ないこと、土曜日であるということでご容赦いただきたい。今後、様々な憶測・観測記事が報道されるだろう。これらに惑わされず、事実のみを注視すべきと私は考える。

 まず、Yahoo!の経営陣はこの事案をできる限り、引き伸ばし、時間稼ぎをするだろう。その時間稼ぎにMicrosoftは微動だにしない姿勢を当面は見せるだろう。その過程でYahoo!の既存株主が納得できる現実的な企業価値向上策をYahoo!経営陣は提示できるか、否かが、最初でありかつ大きな壁となると私は考える。

 関連記事:

塗り変わるか、検索の業界地図--マイクロソフトがヤフーに買収提案:スペシャルレポート - CNET Japan

大西 宏のマーケティング・エッセンス:Yahoo!がGoogleに身売り?の衝撃 - livedoor Blog(ブログ)

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2008.02.02 Saturday | 経営的視点 | comments(0) | trackbacks(1)

MBAでは絶対に教えてくれないこと:成功者の告白

成功者の告白 5年間の起業ノウハウを3時間で学べる物語
成功者の告白 5年間の起業ノウハウを3時間で学べる物語
神田 昌典

 通常、個人が起業した場合、「個人事業主から家業・中小企業・大企業」へと変遷していく。その成長スピードには創業者個人の力量が関係する。しかし、この書籍では変遷していく過程においては、どのようなトップであれ、力量や社員数に関係なく、成長を続ける組織体には、それぞれの成長ステージにおいて共通した問題に直面すると指摘している。

現在の書籍の多くは「大企業」の経営管理が舞台となっているから活用できない

 MBA、いわゆるビジネススクールで教えられることは「大企業」におけるマネジメント、経営管理が主体だ。しかし、日本だけでなく世界中の国々で「大企業」よりも中小企業や零細企業が数の上では大半を占めていることに間違いは無い。
 換言すれば、ビジネススクールで学ぶことができる内容は高度ではあるが、得た知識を実践するためには「大企業という舞台」において上層部での経営が必要になるということだ。私もビジネススクールで学んだが、今の会社規模では留学時代に得た知識は、基本的な経営戦略などについては役立っているが、まだまだ活用するには大きな舞台とは言えない。
 また、日本語に訳されているビジネススクールのテキストや、いわゆるコンサルタント・学者が書いた書籍も何十冊と過去に読んだが、ほとんど参考にならず、ここ数年はまったく読んでいない。先に述べたように「大企業」が舞台として想定されているからである。

 もちろん、中小企業向けの経営ノウハウに関する書籍も多数、出版されている。ただ、これらの書籍の内容は一部の視点、あるいは少し学べば自ら把握できる情報しか提供されていないことが多いと私は考える。

しかし、この書籍は違った。

 この書籍をある場所で見かけた際、過去より著者にあまり好感を持っていなかった私は、また「単なるノウハウ」が書かれているだけかと考えていたが、読了後には、この書籍は「ビジネススクールでは絶対に教えてくれない内容であり、起業を志す方、実際の経営者だけでなく、仕事をする人間、いわゆる組織に存在している人々など経営に関係ない方々にとっても必読の書籍ではないか」と考えた。
 ビジネススクールの教授陣にとっては教える必要性すら感じない内容であるにも関わらず、組織運営を行う上で必ず知っておくべき内容と私は考えている。

 この書籍では、組織体は成長ステージの過程で経営者、社員、経営者や社員の家族などに次のような問題が必ずといって良いほど、直面すると指摘している。

1)成功の頂点で大事故にあったり、病気になったり。さらには病死も。
2)脚光を浴び、マスコミにもてはやされるなか、家族が事故や病気に。
3)成功者として本を出版したとたん、会社の業績が急降下。
4)カリスマ経営者の家庭は破綻。夫婦別居で、愛人がそこらじゅうに。
5)業績をあげればあげるほど、組織の問題が大きくなっていく。
6)社内混乱の引き金を引くのは、意外にも社長が一番信頼している右腕社員。
7)ストレスが原因で社員が連続して急に倒れる事態が生じる。
8)創業時からイエスマンばかりのため、優秀であっても異分子は弾き飛ばされやすい。

 皆さんが属されている企業や組織体で、このような経験・事象は無いだろうか。

 このように、経営戦略やマネジメントではない、まったく違った視点での指摘にも関わらず、実際に企業・組織体で発生している事象がこの書籍の中心だ。もし一つでも該当するものがあれば、解決策がこの書籍に一つのストーリーとして描かれている。

 有名な上場ベンチャー企業の経営者の家族は本当に円満だろうか。経営者が芸能関係の方と結婚し、数年後には離婚したという話をたまに聞く。もしかすれば、著名なベンチャー企業の社長の一部の家庭は円満で無い可能性があるかもしれない。
 著名なベンチャー企業の成長ステージの過程で社員の健康や精神状態に変化はないだろうか。どこかのステージで組織内部に歪が生じている可能性は少なからずあるだろう。実際に社員の健康や精神状態だけがすべての要因では無いとしても、様々な歪によって破綻した事例もあるだろう。
 しかし、メディアなどではこういった裏側の話はほとんど報じられない。戦略や戦術の失敗などしか語られない。しかし、先に述べたように、この書籍では、成長ステージのいずれかの段階で、経営者の家庭の問題、社員の健康・精神的な問題が必ず露呈すると断言している。これらの問題も少なからず企業運営に悪影響を及ぼしていると言えるのではないだろうか。

 私や私の会社でも過去にいくつかの問題に直面した経験があると同時に、現在も直面している課題もある。よって、経営者はもちろん、社員の方々、組織に属する方とその家族それぞれが、これらの課題が発生する理由、そして対処法について知っておかなければならないと私は思う。まさに経営を超えた人生・生活の一部とも言えるが、会社や組織は人生や生活の一部であり、切り離して考えることはできないだろう。この点にこの書籍は着目しているわけである。

 また、少し視点を変えてみよう。

社長への依存からの脱却こそが「大企業」

 売上高が例えば1000億円ならば大企業なのだろうか。売上高1000億円の企業であればMBAで得た知識は確実に企業運営に活用されるのだろうか。私はそうは思わない。
 売上高の規模はともかく、少なくとも日本の企業では「社長」への依存度がかなり大きい。いわゆる「創業者への依存」というものだ。創業者の努力により、個人事業主から中小企業、そして規模こそ大企業並みになったとしても、創業者がいなくなれば、その企業は突如として空中分解する可能性を秘めていると私は考える。換言すれば、創業者が引退、あるいは年齢の関係で死去したとしても、創業当時のDNAが受け継がれている企業のみが「大企業」足り得ると私は思う。

 もちろん長い社歴を持ち、誰が社長になっても経営に変化は無い「大企業」も存在する。しかし、そんな「大企業」が「優良企業」かどうかは別の問題である。このような「大企業」もちょっとした外部要因の変化で「空中分解・破綻」する可能性は捨て切れない。

 また、少し視点を変えてみよう。

ソニーも「家業」からまだ脱却できていないのかもしれない

 ホンダと言えば、「本田宗一郎氏」であり「藤沢武夫氏」である。このお二人の存在が今のホンダを築き上げたことは多くの方がご存知のはずだ。そして、ソニーと言えば、「盛田昭夫氏」であり「井深大氏」である。このお二人がいなければソニーはあり得なかった。
 しかし、ソニーには創業者、そしてそれを支える相方の存在が今も重くのしかかっているという記事を見た。以下、「残像と戦っていた出井改革 (時流超流):NBonline(日経ビジネス オンライン)」より一部引用する。
井深大と盛田昭夫。燦然と輝く2人の創業者の理念。
その残像が変化を拒む人々の拠り所となり、変革者を苦しめた。
会長兼CEO退任から2年半。出井伸之が「改革の真実」を語った。

(一部割愛:以下、ミセスとは盛田昭夫氏の妻をいう)

 創業家を大切にしないのは自分の親にツバするようなもの。創業者がいなかったら、会社は存在しない。自分がCEOの頃は、定期的にミセスと食事をして、事業の節目ではちゃんと説明に行ったが、経営に口を出されることはなかった。

 例えば、ソニー生命保険の売却を検討した時、ミセスはすぐに「あれは確かに主人が作った会社ですけど、主人の時代は主人の時代。出井さんがお売りになるというのであれば、それで構いません」と言ってくれた。

 それでも情がつながる大切さというのはある。ハワードはアメリカ人だけど、私のやり方を見てきたから、そこはちゃんと分かっている。

 (一部割愛)

 ソニー初の「専門的経営者」である出井には、もう1つ越えねばならぬ壁があった。求心力の問題である。

 専門的経営者が一番担保できないのは求心力。創業家の人間は黙っていても求心力を持つが、専門的経営者にはそれがない。

 (一部割愛)

 「盛田さんは私たちのヒーローでした」。99年11月、昭夫の合同葬の弔辞で出井自身がこう読み上げたように、盛田や井深は黙ってそこにいるだけで強烈なオーラを放つカリスマだった。社員は彼らの笑顔が見たい一心で、懸命に働いた。

 出井にはそれがない。出井の言う専門的経営者とは、つまり「サラリーマン社長」。

 (一部割愛)

 「この前、30〜40代の社員に盛田時代の話をしたら、『そんな話は聞いたことがない』と言う。井深、盛田の精神の語り部がソニーの中にいなくなったからだろう」

 井深・盛田を強く意識するのは出井の世代までであり、謦咳に接してはいない社長の中鉢良治や副社長の井原勝美は、創業家の呪縛に悩むこともない。

 記事中にあるように、出井氏は「専門的経営者」である。まさにMBAで得られるような知識を活用し、ソニーという大きな船の舵取りを行われた。しかし、そこには出井氏すら直面する課題があった。これが強烈な創業者が唯一、持ち得る「求心力」だ。
 このようにソニーさえ、形こそは「大企業」であるとしても、おこがましい物言いだが、創業者からの脱却という別の視点からは「家業」から離れられていないと言えるかもしれない。記事中では、現在の経営世代には「創業者の呪縛」に悩むことはないと書かれているが、果たして本当かどうか。それほど経営とは難しいものだ。

 いずれにせよ、創業者だけでなく、企業が成長するステージにおいてはそれぞれ違った役割を果たす人物が欠かせないと、この書籍は指摘する。それが桃太郎の話だ。「盛田昭夫氏」と「井深大氏」だけでは必要な役割を果たす人物が揃っていないとも言える。もちろんソニーには以下に示すような役割を担う人々が時代や企業規模の変化に沿って存在していたはずだ。

桃太郎の話

 この書籍では組織体運営に欠かせない役割を桃太郎の話を例に挙げている。以下に引用する。
 
 桃太郎は、鬼が島に鬼退治に出かけようというアイデアを思いつく。アイデアを思いつく桃太郎は起業家だ。桃太郎が歩いていくと、そこにイヌが鬼退治に加わる。イヌは主人に忠実に尽くすので実務家。次に、サルが鬼退治に加わる。サルは智恵の象徴。システム化が重要な仕事である管理者の役割。最後にキジ。キジは愛と勇気の象徴。グループ全体をまとめ上げる役。

 このように、桃太郎の物語を会社経営になぞらえると、起業家・桃太郎が鬼退治をするというミッションをもって、実務家、管理者、まとめ役に出会い、最終的に宝を持ち帰るということなんだよ。会社経営においても、桃太郎の物語と似たような順番で必要な役割を登用し、事業を成長させていくんだ。

 引用文のように、起業家は当初、必ず存在する。しかし事業に邁進する起業家にはそれを支える実務家がいずれ必要となる。そうでなければ事務処理など欠かせない業務が滞留してしまう。しかし、企業規模が大きくなるにつれ、実務家個人の能力の限界に達する。その際に必要な役割が、実務そのものを円滑に運営・システム化する管理者だ。しかし、それ以上、企業規模が大きくなると先に述べた異分子による組織分裂やストレスが原因で体調を崩す社員が出てくる。その橋渡し、時には受け皿になる役割がまとめ役だ。
 これら起業家と共に3つの役割を担える能力を持つ人間を成長ステージに応じて登用することで、先に述べた会社が必ず直面する課題を克服できる可能性が高いと、この書籍は述べている。

 いずれにせよ、この書籍でも述べられているが成功するためには、一個人の力量だけでは到底、無理であり、多くの人々の犠牲と献身によって成り立っていることだけはこのエントリでも少しは感じてもらえたと思う。

 以上、少なくとも私にとっては極めて参考になる書籍だった。是非とも起業を志す方だけでなく、組織に属する方々、そして、ここで紹介した問題が周辺に発生しているとお考えの方はご一読いただきたい。ストーリー仕立てで読みやすい書籍でもある。
 最後に著者があわせて読めばという参考書籍を紹介し、このエントリを終えることとする。

成功して不幸になる人びと ビジネスの成功が、なぜ人生の失敗をよぶのか
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ジョン・オニール

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2008.01.30 Wednesday | 経営的視点 | comments(4) | trackbacks(0)

ニッチからリッチ、オンリーワンへ:ニシ・スポーツ

ニッチからオンリーワンへ

 先週金曜日12月7日の夕方に電話が。偶然にも私が直接、電話をとったがテレビ取材の件だった。何度かテレビや新聞などに出ている私は、いつものように、テレビ制作会社の方に、企画書をまずファックスしてもらうようお願いした。
 しかし、2時間ほど経過してもファックスは来ない。そこで私から制作会社へ電話したところ「担当が企画書を書いているところなので、明日には・・・」といった回答があった。そこで「週末はファックスを見ることができないため、メールで連絡を」とお願いし、その後、仕事を終え、私は帰宅した。しかし金曜の夜にメールは来なかった。

 翌12月8日土曜日昼にやっとメールを頂戴した。そして私から制作会社担当者へ電話をかけ、その後、週末2日間の電話だけで、撮影の大枠が決定した。
 そして12月10日月曜夜から12日水曜の夕方まで、私だけでなく会社の事業やその他関係者の撮影が連日、続いた。撮影内容詳細を放映前に書かないで欲しいとの制作会社の意向があるためこれ以上は書かないが、最終的な放映日が決定し連絡が来た段階で再度、エントリを書きたいと考えている。

 さて、10日夜の最初の撮影終了後、いつもの第三事務所(飲み屋)で、制作会社の方と会合を。バラエティからビジネスまで幅広い番組を制作されているため、いろいろと業界の貴重な話を聞かせていただいた。その中で最も印象に残ったことを書いてみる。

 制作会社の方によると陸上競技では、棒高飛び以外の種目は選手が日頃、使っている道具を使用することができないとのこと。恥ずかしい話だが、今までこのことを私は知らなかったが、言われてみれば、円盤投げや、やり投げなど、「円盤」や「やり」などには大きさや重さなど規格に応じたものを使わなければ、競技そのものが成立しない。
 よって、競技当日に主催者側が用意した公式な数種類の「円盤」や「やり」の中で好きなものを選手が選ぶそうだ。これで公平な試合ができるということとなる。

 その中で、私も良く知っている「砲丸投げ」。こちらも試合前に選手が用意された数種類の砲丸・ハンマーから本番で使うものを自ら選ぶのだが、ほとんどの選手が、アディダスといった有名な企業のものではなく「オレンジ色」のハンマーを選ぶとの制作会社の方のお話。この「オレンジ色のハンマー」を製造している企業が、今回、ご紹介する「株式会社ニシ・スポーツ」で、過去に制作会社の方が取材されたそうだ。
 「こちら」に、ニシ・スポーツの技術の一部が紹介されているが、詳細はやはり企業秘密だそうだ。ただ、本来の競技の目的である「砲丸がより遠くに飛ぶこと」に様々な工夫・技術が隠されており、そのことを選手も知っているため、結果として「オレンジ色のハンマー」が世界のトップ・アスリートに選ばれるそうだ。
(陸上競技を良くご存知の方は誰もがニシ・スポーツのことをご存知かもしれないが)
 さらに実際に現場で選手の声を聞き、「黒色や銀色」より、最も軽そうに見える色が「オレンジ」であることが判明し、以来、オレンジ色を塗っているそうだ。

 私はこの話を聞きながら、「砲丸投げ」のトップ選手に必ず選ばれるハンマーを製造するメーカーとは凄いなと考えながらも、ハンマーだけでビジネスは成り立つのだろうかと疑問に思った。しかし、制作会社の方に聞いてみると、ハンマーだけでなく、ほぼすべての陸上競技の機器を取り扱っている企業で、「オレンジ色のハンマー」は一つの信頼の証となっているとの話だった。

 ニシ・スポーツの「会社概要」より社長挨拶を一部引用する。
1946年創業以来、私共(株)ニシ・スポーツは「本邦唯一」の陸上競技専門メーカーとしてスポーツ業界に携わってまいりました。陸上競技用の用具、機器、設備、電子機器、ウエアー、トレーニング機器はもとより、競技計測、大会運営と陸上競技関連を会社の柱として行っておりますが、純競技スポーツ分野だけでなく、学校体育、幼児教育、生涯スポーツ、健康関連にも今まで以上に力を注ぎ、新規事業として「施設の運営のサポート」を今までに培ったノウハウを駆使して取り組みたいと考えています。

 また、「会社沿革」や「参加国際大会」を拝見すると、創業約30年後の1980年代後半から急速に「ニッチ」な分野からリッチ、そしてオンリーワンな企業へ成長されていることがわかる。
 町の運動用具屋さんから、国際大会・オリンピックでの公式採用まで。まさに小さな町から世界へ進出した企業であり、ニッチでありながらもリッチな成長。そして「コンマ1秒でも縮めたい、わずか数センチでも伸ばしたい」という思いからつくられた様々な競技用器具は、選手達への信頼を獲得し、オンリーワンの座をものにした。

 今回、我々の会社を取材・撮影された理由の一つに我々にも「オンリーワン」があると制作会社の方は言っておられた。
 ワサビの抗菌作用に着目した樹木用保護剤「樹木の味方」。農薬以外でこの分野の園芸用品を製造し特許を取得している企業は、ほぼ我々だけである。そして、環境に考慮した技術による衰退樹木の回復事業。こちらも名前は出せないが、誰もが知っている有名なお寺や神社、そして公園の貴重樹木や天然記念物の延べ800本程の再生に成功している。
 そして、「樹木の幹内部を非破壊で瞬時に画像化」する「非破壊画像診断」。また、教育現場なら必ず植えられているサクラを活用し、京都大学教授陣が理事の中心となっている「NPO法人グリーン・エンバイロンメント」への大手企業への協賛金を軸に作業体験に対価を得るというビジネスモデルにより実現した「環境教育事業」など、我々もニッチでありながら、少なくとも青森で「樹木の味方」を販売していた頃と比較し、小さな町のお店からは脱皮したと考えている。

 これから、どのような方向に我々が進むのか、進む方向は多数存在している。ただ、ニッチであっても、小さなオンリーワンであっても、闘う場所さえ間違わなければリッチな企業へと成長できると、今回の制作会社の方の話を聞きながら、そして取材を受けながら改めて確信した。
 沈んだ船が陸へ這い上がることは船を修理すれば簡単なことかもしれない。ただ、這い上がった陸が間違った場所であれば、またすぐに沈んでしまう。どこに浮かぶか、どの場所に這い上がるか、そしてそこでどういった舵取りをするかで、企業の成長は大きく左右されるとも言えるだろう。

 様々な模様をした蝶が、様々な方向へ飛び立つ。ただ、蝶もしっかりとした目標に向かって常に飛んでいる。同じことが企業にもいえるだろう。

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2007.12.14 Friday | 経営的視点 | comments(2) | trackbacks(0)
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私がホテルマン時代に上司からこれだけは読めと言われた、テーブルマナーを知る基本の書籍。

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